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絶滅したオオヤマネコが再導入されヨーロッパ各地で復活している!!

みなさんはオオヤマネコという動物をご存じでしょうか。ヤマネコという名前がついていますが、ラブラドールくらいの大きさがあり、家庭で飼われているネコとは全く違う生き物です。かつてはヨーロッパ各地で広く見られましたが生息地の破壊や狩猟などのため、大部分の地域で絶滅してしまいました。ですが、現在、ヨーロッパではオオヤマネコを再導入する取り組みが行われています。イギリスにおいては1300年ぶりに復活させようという動きもあります。

ジオちゃん

日本でもオオカミを再導入しようとする話題を耳にしますが、オオヤマネコの再導入にはいったいどのような目的があるのでしょうか。

オオヤマネコの生態

オオヤマネコはネコ科オオヤマネコ属に分類され、スカンジナビア半島からロシアまで広く分布しています。しかし、冒頭でも触れたとおり、中央ヨーロッパや西ヨーロッパの大部分の地域では絶滅してしまいました。オオヤマネコはヨーロッパでヒグマ、タイリクオオカミに次いで、3番目に大きい肉食動物で、体長は大きいもので1.4mにもなります。そして他の大型の肉食獣と同様、生態系で重要な役割を果たしています。彼らは待ち伏せ型の捕食者で、イノシシやノロジカ、大きいものはトナカイや若いヘラジカを狩ることもあります。

ジオちゃん

オオヤマネコは優秀なハンターなのですね。

大型肉食動物としてのオオヤマネコの役割

彼らには草食動物が増えすぎないようにコントロールする役割があります。また大型の肉食動物は、草食動物を警戒させ、移動し続けさせます。そうすることによって草食動物が同じところにとどまって過剰に植物を食べることを防ぐことができます。草食動物が長期間にわたって集中的にある場所の植物を食べ続けると、十分な回復期間を持つことができなくなるのです。このように、大型の肉食動物は自然の再生産を助ける役割も果たしているのです。

オオヤマネコは健康な森林の生態系を保つためにも必要です。このオオヤマネコは環境や毛皮目的の狩猟により、1950年までに大部分が絶滅してしまいました。

ジオちゃん

一時期は700頭以下にまで減少してしまっています。

最初期の再導入

これを受けて1970年代から数々の再導入がされてきました。最初期の取り組みの中で、成功したもののひとつにスイスのジュラ山脈の事例があげられます。1972年から、1975年の間、チェコからルーマニアにまたがるカルパティア山脈に生息していた10頭のオオヤマネコが、スイスのジュラ山脈に放されました。これらの個体は2007年までに70頭に増えています。そして、彼らの生息域は7000平方キロメートルにおよび、スイスとフランスの山脈にまで広がっています。

しかし、成功した事例ばかりではありませんでした。イタリアのグランパラディーゾ山脈ではたった二頭のオオヤマネコが放されたのです。そして残念なことに、そのうちの1頭が8か月後にフランスで死んでいるのが見つかりました。そしてもう1頭は二度と見つけることができませんでした。

これら初期の再導入の取り組みは計画であるとはいいがたく、さらに放った後、追跡する技術もあまりありませんでした。そのため、最初に述べたスイスでの成功例はまぐれに近いものでした。これらの再導入を観察できないことは、正確なデータをとることができないことを意味します。そして、それはより多くの失敗を生み出すこととなります。

現在の取り組み

現在ではこの失敗を踏まえて、入念な計画と追跡を行っています。ライフリンクスと呼ばれるオオヤマネコの再導入のプロジェクトは、中央ヨーロッパとイタリアに存在する個体群の遺伝的多様性を強めることを進めています。現在、スロバキアのカルパティア山脈からオオヤマネコが、クロアチアのヴェレビト山脈に移され、観察が継続されています。

ドイツでは1850年にオオヤマネコが絶滅していますが、2000年に再導入のプロジェクトが始まりました。当初、24頭のオオヤマネコがドイツ北部にあるハルツ国立公園に放されたのです。現在、オオヤマネコは数をふやし、生息域も広がっています。そして彼らは最初に放された山を離れ、各地で数を増やし、現在、50頭の大人と、40頭の子供がこの地域に生息しています。彼らはこの森で、シカなどの多くの餌を見つけ、狩りを行っているのです。そして、興味深いことに、この地域では至る所にオオヤマネコの絵やオブジェを見ることができます。オオヤマネコはこの土地のマスコットとなっているのです。畜産農家は政府からの補助金でオオヤマネコが家畜を襲わないように柵を作っています。そしてこの柵の近くには、多くの観光客が訪れ、オオヤマネコの観察場所となりました。

ジオちゃん

このように、オオヤマネコは地域の観光産業にもなっているのです。

イギリスの再導入計画

イギリスでは1300年ほど前に、森林伐採により餌となる生物が減少したことと、人間よる狩猟のため、オオヤマネコが絶滅しています。しかし現在、イギリスのオオヤマネコは復活の目前にあります。現在のイギリスではオオヤマネコの再野生化プロジェクトはもっとも野心的なプロジェクトのひとつと考えられています。スコットランドの高原がオオヤマネコを放つうえで、最も適切な場所であると提唱されています。イギリスでは、現在、インドキョンや日本のシカなど、持ち込まれた生物が逃げ出し、天敵のいない環境で大繁殖をしています。そして、これらの生物が農作物を食い荒らすなどし、問題となっているのです。オオヤマネコはこのような中型のシカを餌とし、数を抑える役割をすると考えられています。科学的な分析ではスコットランドで400頭のオオヤマネコが生存可能だとわかっています。

イギリスではすでに絶滅した生物の再導入をいくつか行っています。オジロワシは1916年に絶滅しましたが、ノルウェーなどから導入し、現在は100頭以上にまで増えています。イギリスなどヨーロッパでは再野生化(リワイルディング)と呼ばれる、人間が開発した土地を開発前の状態、自然な状態にもどし、生態系を回復させようという運動が盛んになってきています。これらの運動の一環からオオヤマネコの再導入案も支持を広げていうのです。

懸念点

オオヤマネコの再導入に対し、否定的な意見を持つ人たちもいます。例えば、オオヤマネコは人間に危害を加えないかという疑問があげられます。しかし、オオヤマネコは人間を殺すことができる力を持っていますが、実際にオオヤマネコが人に危害を加えることはほとんどないと言われています。彼らは追い詰められたり怒らせたりしない限り、人間を襲うことはありません。また、夜行性で、そもそも人間と出会うことが少なく、そして賢い動物なので、確実に勝てると思った敵にしか挑まないというのも理由に挙げられます。 

参考:オオヤマネコ – Wikipedia

Lynx で英国を再野生化する © Peter Smith Rewilding 2017