生物

アボカドは1万3000年前に絶滅するはずだった!?

栄養価が高く、美容にもいいため、昨今の女性に大人気のアボカドですが、実は絶滅するはずの植物だったことをみなさんはご存じですか。昔、オオナマケモノなどの大型の哺乳類が果実を食べ、種子を運ぶことでアボカドは種を増やすことができていました。しかし、1万3,000年前にこれらの大型の動物が絶滅してしまいます。この時、種を運んでもらえる動物がいなくなったアボカドはこれらの動物とともに滅ぶ運命にありましたが、なぜか現代まで生き残ることとなりました。どうしてアボカドは生き抜くことができたのでしょう。

アボカドとは

アボカドは、クスノキ科ワニナシ属の常緑高木です。果実は栄養価が高く高カロリーで、「森のバター」の異名で呼ばれています。果肉には脂肪分が約18 ~ 25 %含まれており、この脂肪分が豊富なのが「森のバター」と呼ばれる所以です。さらにアボカドは全ての果物の中で最大のカロリーを持ち、糖分はほとんど含まず、ビタミンB1、B2といった10種類を超えるビタミン、11種類のミネラル、食物繊維を豊富に含んでいます。アボカド1個半程度で成人男性に必要なビタミンEを摂取できます。

ジオちゃん

この栄養価の高さがアボカドの人気の秘密ですね。

日本には生息していませんが、日本産の植物でもっとも近縁なものはクスノキ科のタブノキになります。

大きすぎる種

みなさんは一度はアボカドの種子が果実に対してあまりにも大きいと思ったことがあるのではないでしょうか。これはアメリカ大陸で既に絶滅した巨大動物に合わせて共進化したからだと言われています。 新生代の初め、現代のオレゴン州からフロリダ州までの北米の大地をマンモス、ウマ、象の近縁種であるゴンフォセレ、オオナマケモノなどの大型の動物が、闊歩していました。この時、アボカドは進化の最盛期を迎えていました。

アボカドの実はこれらの大型の動物にとって非常に魅力的で、彼らにとっては大好物でした。オオナマケモノは大きいもので体長5m、体重5tにもなります。そのため、彼らはアボカドを丸ごと食べることができました。アボカドは、大型の哺乳類が一口で食べてくれるように、おいしく魅力的に見えるようその果実を進化させたのです。野生のアボカドは現代のものよりもさらに種が大きく、果肉の部分が少なかったのですが、大型の動物にとって、一口で手軽に食べれるアボカドは魅力的でした。

アボカドを食べたこれらの動物は遠くまで移動し、排便し、種子を新しい場所で成長させます。これは動物被食散布と呼ばれる生存戦略のひとつです。このような種子散布による生存と成長は、すべての果実をつける植物の最終目的です。

ジオちゃん

アボカドと大型動物は持ちつ持たれつの関係だったんですね!

大型動物の絶滅そしてアボカドの危機

しかし、これらの大型の動物は1万3,000年前に絶滅してしまいました。この時期は「メガファウナ」と呼ばれるこれらの巨大型の動物相が大量に絶滅した「第四紀の大量絶滅」と呼ばれてます。この「第四紀の大量絶滅」に北アメリカでは68%、南アメリカでは80%の動物が絶滅しました。

この大量絶滅が起こった原因は、全世界に広がったサピエンスの乱獲により滅ぼされたとする「過剰殺戮説」と、急速な気候変動により滅びたとする「気候変動説」があり、現在も議論が続いています。どちらの説も、絶滅の時期や動物相と一致しない部分があるため、いまだはっきりした答えは出ていません。

ともかく、何らかの理由でこれらの大型の哺乳類は消え去ってしまったのですが、それにもか関わらず、野生のアボカドはいまだに同じ種子散布方法を採用しており、時代錯誤の植物となりました。アボカドは1万3,000年たった今も、彼らが生き抜くためのパートナーである大型の動物が滅んだことに気が付いていないのです。アボカドにとっては1万3,000年とはあまりにも短い期間のようです。

オオナマケモノなどのような、大型の哺乳類が遠くに種子を運ばないと、アボカドの種子は親の木があるその場に落ちて、光が当たらなくて成長ができず、枯れてしまいます。小さい種を持つベリー類などは、小さな哺乳類に丸ごと食べられて、新しい場所で繁栄するチャンスがあるのですが、小さな哺乳類はアボカドの大きな種を丸呑みすることができません。

ジオちゃん

大型動物がいなくなったアボカドは大ピンチですね!!

なぜアボカドは生き抜くことができたのか

ではどうやってアボカドは現在まで生き延びることができたのでしょう。ひとつにジャガーは獲物を丸呑みにできるため、ジャガーがアボカドを食べて種子を拡散することができたとする説が考えられます。また、リスやネズミのようなげっ歯類がアボカドの実を抱えて持ち運んで、地面に埋めるなどし種子散布に貢献したという説もあります。しかし、そのどちらの説も裏付けできる証拠がありません。このようにアボカドがどのように生き残れたのかは謎のままなのです。

人間による栽培の開始

しかし、一度、ホモ・サピエンスが種を栽培し始めると、アボカドは新たな繁栄の機会を取り戻すこととなります。アボカドがいつ頃から食物としてヒトに利用されてきたのかは定かではありませんが、紀元前500年ごろにメキシコで最初に栽培されたと考えられています。それ以来、アボカドはメキシコだけでなく中南米でも主食としてあつかわれることとなります。 こうして果実のほとんどの部分が種だったアボカドですが、人間が栽培することによって食べることができる部分増えました。

しかし、アメリカでの栽培はずっと遅く、20世紀に入ってからです。1914年、このエキゾチックなフルーツはカリフォルニアで栽培が始まります。今日、90%のアボカドがカリフォルニアで栽培されることとなりました。

ジオちゃん

こうしてアボカドは今日、大人気となったんですね!

時代錯誤の果物

生態学者のダン・ジャンセンは研究の結果、アボカドだけが「時代錯誤」の果物ではないことを発見しました。アボカドの他にも中南米に生息するパパイヤ、チェリモヤなどの果物も進化的に停滞していることがわかったのです。ちなみにチェリモヤはアンデス山脈原産で、クリーム状の果実は香りが高く、非常に甘い果物です。これらの植物はどのようにして生き抜いてきたのでしょうか。人間はこれらの植物を私たちが考えるよりもずっと以前から栽培していたのでしょうか。

アボカド生産による環境・社会問題


このように、いちどは絶滅しそうになったアボカドですが、世界中でも人気が高まっており、そのため問題点もまた浮き彫りとなっています。アカドは土地の栄養分を食い尽くして果実を実らせるため、いったんアボカドを生産すると、その後に他の種類の果物を生産することは難しいとされています。また、アボカドの需要が高まっているため、過剰な農地開拓で、森林破壊が進んでいます。さらにアボカドの生育に必要な水の量は極めて多く、生産地域の水資源の枯渇が問題視されています。

また、環境以外にも問題点があります。主要生産国であるメキシコでは、麻薬密輸集団がアボカド産業に目を付けて関与するようになりました。アボカド産業が「税金」として麻薬密輸組織に金銭を要求され、アボカド産業関係者が武装自警集団を作って対抗していることで生産費用は上昇し、地域の治安が悪化し、一般市民の犠牲も出ているのです。

これらの問題点からアボカドは絶滅した方がよかったのでは?と考える人も少なくありません。

ジオちゃん

アボカドに罪はないんですけどね・・・

参考

アボカド – Wikipedia

Why the Avocado Should Have Gone the Way of the Dodo | Arts & Culture| Smithsonian Magazine