地理

ガイコツや船の残骸が眠る骸骨海岸(スケルトンコースト)

アフリカ南部ナミビアにあるナミブ砂漠の大西洋岸には座礁した船の残骸や動物の骸骨などが散らばっているため、骸骨海岸(スケルトンコース)と呼ばれています。なぜこの海岸ではそのような恐ろしい光景が見られるのでしょう。そこで、今回は世界で最も危険な海岸と呼ばれるこの骸骨海岸、スケルトン、コーストを紹介します。

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ナミブ砂漠

ナミブ砂漠は8000万年前に生まれたとされ、地球上で最も古い砂漠と考えられています。北はアンゴラとの国境付近から、南は南アフリカ共和国北端にまで及び、南北は1,288km、東西は幅48kmから161km。面積は約50,000km²にもわたります。この砂漠は気候が非常に厳しく、年間降水量は120mm以下であり、一部では25mmにも満たない所もあります。 

湧昇とは

そしてこのナミブ砂漠の海岸では、冷たいベンゲラ海流の湧昇が発生します。湧昇とは、海洋において、海水が深層から表層に湧き上がる現象をいいます。普通表層と深層の海水は、温度や塩分濃度など物理的、化学的な性質により、お互いに混ざり合うことはありません。また、表層と深層にはそれぞれ独立した海流が存在し、両者が接続するのは地球上のほんの一部の限られた地域のみです。しかし、ある特定の条件を満たした場所では深層から表層へ、一時的あるいは長期的に海水が湧き上がるような流れが発生することがあり、これを湧昇と呼んでいます。湧昇は非常に珍しく、湧昇域は全海洋面積の0.1%程しかないとされています。 

過酷な環境

この湧昇が起こることにより、この地域では年のほとんどの間、濃い海の霧が発生します。 この霧はアンゴラ人によってカシンボと呼ばれています。 

一方、陸からは風が海に吹きこみ、降雨量は年間10mmを超えることはめったになく、生物にとって非常に住みにくい気候になっています。 

船でこの海岸に上陸することは可能ですが、海岸には絶え間なく激しい波が打ち付けるため、エンジンを動力源とする船やボートが登場する前の時代は、この場所から出向をすることは不可能でした。船を出す唯一の方法は、数百キロメートルも続く沼地を進む必要があります。 

海岸の南部は砂利で構成され、北側に行くにつれて高い砂丘に支配されていますが、ところどころ岩が露出しているため、昔からこの地域で難破したり、座礁したりする船が多発していました。さらに、ここは数百キロメートルにもわたって避難港がなく、運良く海岸に乗り上げることができたとしても、過酷な砂漠が待ち受けているため、そこで生存することも困難という極めて危険な地域でした。 

捕鯨産業

この海岸には、かつて捕鯨産業によって捨てられたクジラとアザラシの骨が海岸に散らばっています。 

スケルトンコーストの捕鯨産業は、ヨーロッパやアメリカによって18世紀後半に始まりました。彼らは主に、豊富で捕獲しやかったミナミセミクジラをターゲットにしました。100年以上にわたり、このナミビア沖の海でヒゲクジラの捕鯨が行われていました。この産業は19世紀から20世紀初頭にかけてピークに達し、沿岸に捕鯨基地が設立され、鯨油がヨーロッパとアメリカに輸出されました。しかし、捕鯨業界は過度の捕鯨のためクジラが減少したことと、他の油が市場に出回ったことにより衰退ました。現在、クジラの骨はこの地域の過酷な天候では分解されないため、何十年もこの場にとどまり続けています。 

難破船

さらに海岸には沖合の岩や霧によって、巻き込まれた難破船の残骸が見られ、さまざまな大きさ船が海岸に散らばっています。 

スケルトンコーストという名前は、ジョン・ヘンリーマーシュという人が難破船について記した本のタイトルからつけられました。この本が1944年に最初に出版されて以来、海岸は現在一般的にスケルトンコーストと呼ばれ、こんにちのほとんどの地図で正式名称とされるほど有名になりました。 

この海岸で発見されている最も古い難破船の1つは、1530年代のものです。これはヨーロッパのイベリア半島で作られた伝統的なものです 

一方、最も新しいものは、驚くべきことに日本の漁船です。2018年3月22日、日本の漁船がスケルトンコーストの近くで座礁しました。24人の乗組員全員がナミビア当局によって救助されています。 

日本の漁船がこの場所を漁場としているのは、ベンゲラ潮流が豊富なプランクトンを産出し、良好な漁場を形成しているためです。これは、海底を陸側に向けて流れる冷たく栄養分の高い海水がナミビア沿岸で海水表面に浮上し、沖に向かって海表を流れています。 

「神の怒りにより作られし土地」「地獄の門」

これまで見てきたようにのような過酷な環境のため、ナミビア内陸部の先住民族のサン人は、この地域を「神の怒りにより作られし土地」と呼び、ポルトガルの船員はかつてここを「地獄の門」と呼んでいました。 

スケルトンコースト国立公園

このような環境にもかかわらず、ナミブ砂漠には、その気候に適応した多くのユニークな動植物を見ることができ、ウガブ川からクネネまでの16,000平方kmにわたる広大な土地がスケルトンコースト国立公園として指定されています。 

この国立公園では朝方に霧が風に乗って100km以上内陸部にまで進入します。 

ナミブ砂漠に生息するウェルウィッチアという植物がありますが、葉が2枚しかなく、地面に這うように伸びていきます。ウェルウィッチアは、この霧から貴重な水分を吸収することで生きており、最大で2000年もの寿命があると言われています。 

また、ナミブトカゲという爬虫類は、背中に凹凸のある鱗を持ち、霧から水滴を集めて口元に流すことで水分補給をします。他にも、昆虫なども見られます。 

このような過酷な環境に住む動植物の多くは、海の霧による湿気に依存して生存しているのです。 

さらに内陸部には、ヒヒ、キリン、ライオン、クロサイ、ブチハイエナ、カッショクハイエナ、スプリングボックなどの哺乳類が生息しています。これらの動物は、ヒヒやゾウが掘った井戸からほとんどの水分を得ることで、この過酷な環境で生きることができています。 

またフリア岬にはアザラシの大規模なコロニーがあることでも有名です。 

また、この国立公園の見どころとして、「ホアルシブ川の粘土の城」があります。 これは、ホアルシブ河口の約20km上流に発生する、巨大できめの細かい泥でできた堆積物です。砂の城に似ていることから名付けられました。そのほか天然の塩田なども見られます。 

サーフィン

また、スケルトンコーストは現在、サーフィンに最適な場所としても知られており、2分以上ものロングライドが可能な2.1kmの波が発生することで有名です。 

ベストシーズンは5月から9月ですが、水温は低く、霧が強いので注意が必要です。また、サメも生息している可能性が高いので、安全対策をしっかりと行ってください。