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シャチは海の最強生物!強すぎる理由がこちら

シャチは世界中の海に生息し、海洋系での食物連鎖の頂点に立っています。彼らは武器を使うヒトを例外にすると自然界での天敵は存在しません。ではなぜシャチは海の頂点捕食者になることができたのでしょう。そこで今回は近年の研究でわかったシャチのすごさについて紹介していきます。

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統率のとれた群れで狩りをする

まずシャチのすごさのひとつに群れの統率力があげられます。 

シャチは母親を中心とした血の繋がった家族のみで構成された、母系社会を形成する社会性を持つ動物です。オスは繁殖のため、ほかの群れに加わることがありますが、その後母親のもとに帰ってきます。シャチのメスは体長が5メートルから7メートルになる一方、オスは6メートルから8メートルにまで成長し、メスよりも大きくなります。そのため、力もより強く、獲物のとどめを刺すのはたいていがオスの役割です。それにもかかわらず、シャチの母親が死ぬと、その息子の死亡率が大幅に上がってしまいます。それは、シャチの母親が狩りの作戦を立て、群れを指揮をしているからです。経験値の高い母親がいないと狩りの成功率は下がってしまうのです。

シャチは閉経するのがもっともはやい動物のうちのひとつで、メスは90年以上生きるにも関わらず、40歳くらいになると繁殖を行わなくなります。そして、閉経後のこの長い期間は息子の世話をするために費やされるのです。 

ホホジロザメより強い

ホホジロザメは体長が4から6メートルまで成長し、アザラシなどの海棲哺乳類を好み、魚なども捕食します。彼らは大きな顎と鋭い歯をもち、泳ぐのが速く、捕食者としての能力が高い上、気性も荒いことで知られています。にもかかわらず、ホホジロザメはシャチに勝つことができません。

かつて南アフリカ沿岸ではホホジロザメを観察するためのケージダイビングが観光客を魅了していました。しかし、この辺りの沿岸を支配していたはずのホホジロザメは、近年、この海域を避けています。それは、2017年以降、2頭のシャチがホホジロザメを次々と殺しているからです。この2頭は、背びれが左右別々の方に曲がっていることから、船に見立てて、それぞれスターボード(右舷)とポート(左舷)と呼ばれています。

彼らの狩りの方法はホホジロザメの死角から近づき、噛みついたり、尾びれで殴ったりして、気絶させます。もしくはホホジロザメをひっくり返して、トニックイモビリティという状態にさせます。トニックイモビリティとは、サメが仰向けになると動けなくなる現象のことを言います。こうして彼らは栄養価の高いホホジロザメの肝臓や心臓だけを狙って食べるのです。 

ホホジロザメは軟骨魚類で脆弱な骨しか持っていない一方、強靭な骨格を持った哺乳類であるシャチは、体重、筋力、スピード、肋骨の防御力、頭脳においてホホジロザメよりも優れています。また、単独で行動することが多いホホジロザメは、群れで狩りをするシャチにはかないません。 

この2頭は連続殺人犯を意味するシリアルキラーとシャチを意味するキラーホエールを合わせた、シリアルキラーホエールズと呼ばれ、この海域の生態系そのものを変化させています。 

2000年にも、サンフランシスコ沖に生息していたホホジロザメが突然姿を消しています。研究者が1匹のホホジロザメにGPSタグを取り付け、追跡したところ、3000km離れたハワイまで泳ぎ続けていたことがわかりました。これはシャチが1匹のサメを殺したからです。なぜホホジロザメが素早く危険を察知できるのかわよくわかっていませんが、おそらく、彼らは嗅覚が鋭いため、仲間の死体のにおいを嗅ぎ、逃げ出したのではないかと考えられています。 

強すぎてポテンシャルが有り余る

このようにホホジロザメでさえかなわないシャチは、ポテンシャルが有り余っています。 

シャチは尻尾を使って、アザラシを海面から、約25メートル上まで打ち上げているところが観察されています。また北太平洋では、シャチがトドの子供を何時間もなぶり続けている様子も見られています。そして、これらの獲物が食べられずに放置されているのを研究者はたびたび観察しています。シャチは食べもしない獲物をいたぶり続けるのでしょう。それは獲物を弱らせて、自分の子供に狩りの練習をさせるためだと考えられています。彼らは食べる以外にも、狩りの練習のため、そしてただ遊ぶためだけに、獲物を殺すことがあるのです。

知能の高さ 

また、シャチにすごさにその賢さもあげられます。 

シャチにとってマグロを狩ることは簡単ではありません。それはマグロが水深200メートルを泳ぎ、シャチにとってこの深さまでもぐるのは大変だからです。また、マグロはシャチよりも早く泳ぐことができます。

しかし、30年ほど前から、あるシャチの群れがマグロを狩る最適な方法を覚えました。彼らは漁船の近くを泳ぎ、マグロを巻き上げる音を聞くと準備をします。そして、水面近くまで上がったとき、なんの努力もせずにマグロを食べることができるという訳です。こうして、漁師にはマグロの残骸だけを残して去っていきます。シャチはこの方法を互いに教え、この文化は付近に住む群れの中に広がっています。研究者がインド洋南部に位置する、クロゼ諸島沖に生息するシャチの食性を調べたところ、2010年から2017年の間に、漁船から魚を盗む個体が17頭から43頭に増加したことが分かりました。そして、この広がりのスピードは増加しているといいます。 

捕鯨を手伝うシャチ

しかし、彼らの頭脳は人間から獲物を奪うだけではなく、かつては人間を助けるためにも使われたこともあります。今から百年以上前、オーストラリア・ニューサウスウェールズ州のエデンでは捕鯨が行われ、ここに住む「楽園(エデン)の殺し屋」と呼ばれていたシャチの群れはその手伝いをしていました。この群れはオールド・トムというリーダーのシャチに率いられ、捕鯨しやすいようヒゲクジラを岸に追い込んでいたのです。

捕鯨者とシャチの間には「舌の法則」と呼ばれる暗黙のルールがありました。それは、捕鯨者が海岸までクジラを引き、一晩死体を放置し、その間にシャチがクジラの舌やアゴだけを食べ、残ったものから鯨油をとるというものです。 

しかし、ある時、他の捕鯨者がシャチをクジラを捕食する害獣とみなし、オールドトム以外の群れのメンバーを殺してしまいました。その後、乱獲によりクジラは減少しエデンではヒゲクジラが見られなくなったにも関わらず、オールドトムは1頭で毎年戻ってきていました。数年後、オールドトムが海岸で死亡しているのが発見されました。これは、老齢により、エサが食べられなくなり餓死したと考えられています。 

オールド・トムと楽園の殺し屋について詳しく知りたい方はこちらの動画をご覧ください。

シャチから他の生物を守るザトウクジラ

このように無双だと思われるシャチにも厄介な敵がいます。それはザトウクジラです。シャチはザトウクジラの子どもをターゲットにすることもあります。しかし、ザトウクジラが成長してしまえば、最大で18メートルにもなり、1頭でシャチの群れを相手にできるほど大きくなります。そしてこのザトウクジラは他の動物を守るためにシャチを攻撃することがあるのです。 

60年以上にわたる観測によると、ザトウクジラが同種を守ろうとしたのは全体の11%に過ぎず、残り89%は、他のクジラ類やアザラシ、アシカ、イルカ、中にはマンボウなどの魚も守ったことがあることがわかりました。この攻撃は何時間にも及ぶことがありました。なぜこれほどの労力を費やしてまで、そして自身の危険を挺してまで。ほかの種を守ろうとするのかはまだわかっていません。一説によると、シャチの獲物を減らすことで、シャチの数を減らす戦略ではないかと考えられています。