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野生のチンパンジーとゴリラが社会的関係を築いている事例が観測される

チンパンジーとゴリラは多くの範囲で生息域が重なっていますが、これまでこの2種がどのような関係にあるかはあまり知られていませんでした。しかし今回、アメリカのセントルイス・ワシントン大学の研究によって、チンパンジーとゴリラが長期にわたる社会的関係を築いているという事例がはじめて報告されました。チンパンジーとゴリラが一緒にエサを食べたり、両種の子供同士が一緒に遊んだりしているところが観察されたのです。

ジオちゃん

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異種間の交流

これまでは、同じような生態系の位置にいるもの同士は激しく競争し、自分の環境から他種を排除しようとしていると考えられていました。しかし、最近の研究によって、お互いに協力の関係をとるものもあることがわかり始めました。今回のような異なる2種間の交流は他の霊長類でも観察されています。 

異なる2種が社会的交流をすることは、外敵から身を守る、食料に関する情報の交換ができる、社会性が向上するなどの利点があります。2種以上が集まるとより大きな群れとなるため、天敵の存在を素早く察知できる確率が高まります。また、天敵を混乱させることもできます。さらに他の種のエサを見つける能力を利用して、エサにありつくこともできます。そして、毛づくろいや、異種間での子供の世話などの助け合いができます。また、オス同士が繁殖のため競争すると怪我をしたり、場合によっては命を落としたりしますが、異種間の交流ではこのようなリスクを負うことなく群れを大きくすることができます。 

反対にデメリットとしては、数が増えることで外敵から目立ちやすくなることや、エサの相対的な量が減るなどが考えられます。 

そのため、異種間で競争の関係になるか、協力の関係になるかはエサの豊富さで決まると考えられます。

ジオちゃん

このように、これまで霊長類の異種間交流についてはよく観察されていました。 

チンパンジーとゴリラ

チンパンジーは西アフリカと中央アフリカの森林に生息し、中央アフリカではゴリラとの生息域が大きく重なっています。それにもかかわらず、これまで両種の交流についてはわからないことがたくさんありました。それはチンパンジーとゴリラの両種がともに研究者の存在に慣れ、かつ研究者が両種とも個体の識別が可能である必要があるためです。 

しかしセントルイス・ワシントン大学は1966年から2020年までの間、チンパンジーとゴリラがともに住む8か所の地域でデータをとり、各場所でこの2種の相互関係について調べてきました。 

チンパンジーはヒガシゴリラがよく食べる果実がなる木に巣をつくることを避けます。このように、普通、チンパンジーとゴリラは過ごす時間と場所が重複しないようにお互いを避けます。 

ゴリラは主に地上で過ごし草を食べますが、ニシゴリラはヒガシゴリラより果実をより多く食べる傾向にあります。そのため、チンパンジーと生活圏が重複する確率がヒガシゴリラより高くなります。研究者は、この時、ニシゴリラとチンパンジーは果実が豊富にあるときは同じ場所に集まり一緒に果実を食べ、果実が不足しているときは集まらない傾向にあることを発見しました。 

外敵から守る

この中で特に、グアロウゴ・トライアングルという地域で、チンパンジーとゴリラが同じ木で一緒にエサを食べ、子供同士が遊ぶなど、両種の交流を最も多く観察しました。 

研究者はより体の小さなチンパンジーが、ヒョウなどの天敵から守ってもらうためにゴリラと頻繁に接触しているのではないかと考えました。そのため、個体数が少ない群れや、小さな子供を連れているメスが多い群れでは、成熟したオスが多くいる群れよりもゴリラと接触する可能性が高いのではないかと予測しました。そして、チンパンジーがゴリラの群れを攻撃する場合はチンパンジーの群れに成熟したオスが多くて、ゴリラの群れが子供連れのメスが多いときに起きるのではないかと考えたのです。 

これは実際に、両種が一緒にいる時に、捕食者が現れると、一方の種が危険を知らせる鳴き声を出すと、これに対してもう一方が反応していることが観察されました。他種の警戒の声に反応し、もう一方の種が警戒の声を上げ返したのです。 

しかし、個体数を増やして群れの脆弱性を補完しているのではという考えに反して、ゴリラと交流するチンパンジーの群れの個体数が、ゴリラと交流を全くしないチンパンジーの群れよりも多いことがわかりました。さらに、子連れのメスが多い群れでも、成熟したオスが多い群れでも同じようゴリラの群れと交流していることもわかったのです。 

同じようにゴリラの方でも子供のゴリラが最も安全であるはずのシルバーバックの元を300mも離れて、チンパンジーの群れの中に遊びに行く姿が観察されています。 

そして、普通に考えると大勢で寝た方が安全だと思われますが、チンパンジーとゴリラはそれぞれ好みの寝床があるようで、ほとんどの群れが別々の場所で寝ていました。 

このようなことから彼らは捕食者から守り合うために集まっているのではないと考えられます。 

食料の情報交換

それよりも、この異種間の交流は大部分がエサをとる目的のためのようだったようです。彼らは一緒にいる時、主に同じ種類のエサを食べていました。この研究では20種の共通のエサを食べていることが確認されています。

その中でも特に、イチジクが重要な位置を占めていると考えられています。グアロウゴ・トライアングルではイチジクは非常に希少で、森の中に点在しているのですが、彼らが一緒にいる時に食べていたものの60%以上がイチジクだったのです。

ある方向に向かっていたゴリラの群れが、イチジクの木にいるチンパンジーの声が聞こえると、その声の方に進行方向を変えるところが観察されました。イチジクは熟しておいしく食べられるのが3、4日程度と短く、このため、チンパンジーのイチジクを見つける知識をゴリラが利用しているようでした。

このように多くの場合、ゴリラの群れがチンパンジーの群れに統合されたかのようになるのでした。ここではゴリラは木に登り、チンパンジーと一緒に果実を食べたり、落ちたものを食べたりしています。 

社会的交流

次に個体間の交流についてですが、彼らが一緒に過ごすときはエサを食べるだけでなく、一緒に遊ぶ姿も見られました。その中でも子供を持つメスのチンパンジーとゴリラの交流が一番多く見られました。その次に大人のオスのチンパンジーとゴリラの関係でした。最も少なかったのが成熟したチンパンジーのメスとゴリラとの関係でした。 

逆にゴリラの方では、シルバーバックはチンパンジーとあまり交流をしませんでした。これに対して、若いオスはよくチンパンジーと交流しました。

ある個体が特定の友達を探す様子が観察されているため、お気に入りの遊び仲間がいるようです。

他の地域ではチンパンジーとゴリラの双方で、攻撃的な反応から友好的な反応まで観察されましたが、グアロウゴ・トライアングルでは攻撃的な反応は稀でした。

遊びの内容はレスリング、噛みつき、打撃系などです。ここで面白いことに、思春期のオスのゴリラが、若いメスのチンパンジーの臀部に股間をこすりつける行為が何度か観察されています。また、チンパンジーがゴリラのドラミングをマネする行為も観察されました。

チンパンジーとゴリラの一頭ずつペアでの交流が多かったのですが、複数で遊ぶ姿も見られています。 

さらに毛づくろいやお互いの子供の世話をするなどの助け合いも見られました。 

類人猿の遊び

類人猿は社会的、身体的、認知的能力を広げるために遊びをします。チンパンジーは群れによって特有の道具の使い方をすることから、独自の文化を持つことが知られています。このように彼らは社会的学習能力があるため、これらの交流には情報伝達の目的もあると考えられます。種間の関係を持つことは、類人猿の社会に行動と革新をもたらす可能性があるのです。 

これらのチンパンジーとゴリラの友好的な社会交流はチンパンジーの縄張りの中心部にゴリラが住んでいるときによく起こりました。これとは対照的に、ゴリラがチンパンジーの縄張りの外に住んでいる場合に、争いがよく起きます。ロアンゴではチンパンジーによるゴリラの殺害が観察されていますが、それ以外はチンパンジーによるゴリラの殺害、捕食は今のところ見られていません。

ジオちゃん

ロアンゴでのチンパンジーによるゴリラの殺害の詳細はこちらの動画でご覧いただけます。

【観察史上初】チンパンジーがゴリラを襲う事件が初めて観察される!

感染症

これまで見てきたような交流にはメリットだけでなく、リスクを伴う場合があります。それは感染症です。チンパンジーとゴリラはともに絶滅危惧種に指定されており個体数が少ないため、ひとたび感染症が流行ると絶滅してしまう危険性も考えられます。これまでチンパンジーとゴリラの間では感染症の媒介がされることが知られています。

遊びを通してこの2種が接触することや、チンパンジーが捨てた果実をゴリラが食べている様子などが観察されているため、感染症が媒介されるリスクが懸念されています。 

初期の人類

今回のような研究は初期の人類がどのように種間で交流したかを推測できるいい資料となります。アフリカ東部では、パラントロプス・ボイセイと複数の初期のホモ属が、約2〜150万年前のトゥルカナ盆地で発見されています。

これまでは人類同士が競争し、お互いを排除してきたと考えられていましたが、実はそんなに争っていなかったのかもしれません。それよりむしろ、チンパンジーとゴリラに見られるような異種間の交流が起きていたのかもしれません。そして、感染症のためホモ・サピエンス以外は滅んでいったのではないでしょうか。 

参考

Interspecific interactions between sympatric apes